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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)4711号 判決

理由

原告が訴外有限会社上田乳業食品および上田四郎に対し、原告主張のような債権を有すること(ただし、昭和三四年ごろから金融してきた貸金をまとめたもの、なお、右訴外会社はその所有の別紙物件目録(一)の建物に、上田はその所有の同目録(二)の建物に抵当権を設定したが未登記であつた。)(証拠)により認められる。

被告が原告主張の日その主張のように右訴外会社および上田との間に即決和解をなし、別紙物件目録(一)、(二)の建物の所有権を取得し、その登記を経由したことは被告の争わないところであり、更に、証人上田四郎の証言によると、右訴外会社および上田は和解当時右(一)、(二)の建物以外には格別の資産を有せず、原告に対する右債務、後記の被告に対する債務のほか多額の債務を負担していたことが認められる。

しかしながら、(証拠)を綜合すると、右訴外会社(代表取締役上田四郎)は昭和八年ごろから被告より牛乳の卸売りを受け、昭和三〇年六月一〇日には被告との間に牛乳等の継続的売買契約を締結し、右(一)の建物につき極度額一二〇万円の根抵当権を設定したところ、昭和三三年ごろから代金の支払が延滞し、同年五月一六日被告との間に被告主張のように右(一)、(二)の建物につき極度額一五〇万円の根抵当権設定および停止条件附代物弁済予約をなし、被告主張のような登記を経たが、昭和三六年五月二五日締切六月一四日現在で未払代金が二四四万円となり、被告より、右代金の支払のないときは、前記根抵当権又は代物弁済の予約完結権を撰択行使すべく、かつ、右継続的牛乳等売買契約を解除する旨通告を受けたので、示談の申入れをした結果、同年七月二五日前記のような和解がなされるに至つたもので、この和解により、訴外会社は被告に対する右債務二四四万円の支払の猶予をえて分割払の約定をするとともに今後引き続き牛乳等の売渡しを受けることとし、右(一)、(二)の建物の譲渡は被告に対する訴外会社の右債務および将来の牛乳等買掛代金債務ならびにこれらの債務についての上田の連帯保証債務の弁済を担保するための譲渡担保としてなされたもので、債務不履行のときは被告において建物を任意売却し、売却代金中より経費を差引いた残額で債権の支払に充当し残金を生じたときは返還する旨を約したこと、右和解当時、右訴外会社および上田四郎は、右建物で牛乳販売業を営まないかぎり、被告に対する債務はもとより、原告らに対する債務の支払もできない状態にあつたことが認められる。

右事実によれば、右訴外会社および上田は、和解当時被告に対し二四四万円の債務を負担し、根抵当権の実行又は代物弁済予約完結権の行使を受けてもやむをえない状態にあり、しかも被告との取引を打ち切られ本件建物を失えば、唯一の収入源である牛乳等販売業を継続しえなかつたもので、これを避けるためには、右債務および将来の被告との取引により生ずべき債務を担保するため、右(一)、(二)の建物を譲渡担保として被告に提供することもやむをえなかつた事情にあつたものというべく、このような場合には右建物の譲渡行為は債権者を詐害する行為とはならないものというべきである。

しからば、原告の本訴請求は失当というべきであるから、これを棄却……。

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